【独自インタビュー】WBC2025優勝のジャック・シンプソン氏&WLAC2013優勝の小川珈琲・吉川氏の現在地を取材!- Coffee Artisans’ Session at OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪 –

写真左からジャック・シンプソン氏(WBC2025優勝)、小川珈琲・吉川寿子氏(WLAC2013優勝)
<span class="fz-12px">らてみゅーちゃん</span>
らてみゅーちゃん

贅沢にも世界チャンピオンのお二人にインタビューをさせてもらったでし!これから大会を目指す競技者の方は必読でしよ〜!

「コンセプトとカップが完全に一致している状態、それが美味しいコーヒーだと思います」——2013年ワールドラテアートチャンピオンであり、小川珈琲のチーフバリスタを務める吉川寿子氏は、明快に答えました。技術や肩書きより先に、カップの中の誠実さと向き合うこと。その哲学を体現するバリスタが、ひとつの場所に集まるイベントが実現しました。

「Coffee Artisans’ Session at OGAWA COFFEE LABORATORY TAKANAWA」は、2026年4月18日(土)・19日(日)の2日間、高輪に誕生した新店「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」の開業を記念して開催される、この場所初のイベントです。

登壇されたのは、吉川氏に加え、2025年ワールドバリスタチャンピオンのジャック・シンプソン氏、そして2013年・2015年ジャパンコーヒーイングッドスピリッツチャンピオンの大渕修一氏。バリスタとバーテンダー、コーヒーの競技会で頂点を極めた3名が共演する、またとない機会となりました。

昼の部では、ジャック氏によるシグニチャードリンク、大渕氏によるエスプレッソマティーニ、吉川氏のラテアートを纏ったカプチーノをそれぞれ本イベント限定で提供されました。夜の部はシェフズテーブルへと場を移し、旬の食材を活かした炭焼き料理と3名のシグニチャードリンク・カクテルのペアリングディナーへと展開。また、小川珈琲株式会社 代表取締役社長/CEO 宇田吉範氏も登壇され、3名のチャンピオンとともにコーヒーをめぐるトークを届けられました。

OGAWA COFFEE LABORATORYが掲げる「珈琲の味わいの先にある体験価値と、コミュニティを創造するオープンイノベーションの場」、そしてMIMUREのビジョンである「100年先の心豊かな暮らし」——この2つの思想が交差する高輪という場所で、チャンピオンの3名が体現するのは、ただ美味しいコーヒーを出すことではありません。一杯を通じて、何を感じ、何を語り、何を持ち帰るか。そんな体験の豊かさを問いかける2日間になったはずです。

今回は、昼の部における吉川氏とジャック氏のイベント模様をお届けするとともに、両氏へのインタビューも実施しましたので、ここでしか聞けない貴重なエピソードをご紹介します。

イベント詳細

イベント名Coffee Artisans’ Session at OGAWA COFFEE LABORATORY TAKANAWA
日時2026年4月18日(土)・19日(日)12:30~21:00
会場OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪 ニュウマン高輪 MIMURE 2階
部構成昼の部CUP : 092 The Extracting Lab
└吉川 寿子 カプチーノ(バララテアート) 2,000円/20杯限定 世界大会で披露したバラのラテアートを施したカプチーノを提供 使用豆:Costa Rica Sumava Milenio Black Cherry
└大渕 修一氏 カクテル 3,000円/50杯限定 本イベントのために考えた特別なエスプレッソマティーニを提供 使用豆:El Salvador Los Alpes Geisha
└ジャック・シンプソン氏 シグニチャードリンク 3,500円/35杯限定 WBC2025で優勝した際のシグニチャードリンクを提供 使用豆:Panama Deborah Nirvana
夜の部KIT : 360
└The Connecting Lab(シェフズテーブル)炭焼き料理×チャンピオンのドリンクによるペアリングディナー
登壇ジャック・シンプソン氏(WBC2025優勝)
大渕修一氏(JCIGS2013/2015優勝)
吉川寿子氏(WLAC2013優勝・小川珈琲チーフバリスタ)
宇田吉範氏(小川珈琲株式会社 代表取締役社長/CEO)

小川珈琲・吉川寿子氏 カプチーノ(バララテアート)

吉川氏のタームは、2種類のコーヒーの提供から始まりました。まずはエスプレッソ、そしてラテアートを纏ったカプチーノ。それぞれ異なる豆を使うという、こだわりの2コース構成でした。

エスプレッソに使われたのは、コスタリカ・シュマバ農園の「ブラックチェリー」です。OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪の開業を記念して、生産者が特別に仕上げてくれた一点ものです。参加者には、コーヒーの農園情報と生産者からのメッセージが記されたディスクリプションカードが配られ、「生産者の思いも一緒に受け取ってほしい」という吉川氏の言葉が添えられました。

吉川氏によると、ブラックチェリーという精製方法はナチュラルプロセスに該当するとのこと。「日陰で4日間→屋根付きパティオで22日間乾燥→日陰に戻して22〜25日間乾燥→天日干しで約2週間」と場所を移しながらゆっくりと乾燥させることで、発酵がじっくりと進み、ナチュラルらしい甘さと複雑さが生まれると言います。

そしてこのコーヒーには、もうひとつの裏話がありました。

吉川氏「このコーヒー、実は昨日焙煎したばかりなんです。焙煎したてのフレッシュな状態で皆さんに飲んでいただきたくて。」

イベント前日の4月17日、吉川氏は小型サンプルロースターのLINKを使って、このコーヒーを1日かけて自ら焙煎されたそうです。販売の予定もなく、まさにこの日この場所のためだけの一杯でした。

それでは早速、貴重なエスプレッソをいただきます。ジューシーで鮮やかな酸ですね!そしてベリーの強い甘みが印象的です。ブラックカラント、モラセス、熟したチェリーのフレーバー。酸味の後に優しい甘さが長く余韻として残ります。温度帯の変化で赤ワインのような味わいも楽しめました。

OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪でバリスタとして勤務するテレル・ベネディクトさんにエスプレッソを淹れていただきました。

エスプレッソに続いて提供されたのは、ラテアートを纏ったカプチーノ。こちらにはシュマバ農園ではなく、OGAWA COFFEE LABORATORYメインブレンドのハウスブレンド京都が使われました。ミルクとの相性を考え、苦みと甘さをしっかり感じられるブレンドを選定したそうです。

抽出と同時進行で、目の前でラテアートが仕上げられていきます。バラの花をかたどったデザインが、一杯ずつ参加者の前で丁寧に描かれました。このデザインはWLAC2013で披露したもの。

エッチングペンで細い線を描いて仕上げていきます。

「時間が経ってもへたらない」と吉川氏が話していた通り、完成したラテアートは時間が経っても形を保ち続けました。マイクロフォームの均一さ、温度管理、攪拌の安定性——どれひとつ欠けても成立しない技術が、一輪のバラに凝縮されていました。思わず飲むのをためらってしまうほどの美しさでした。

現在、吉川氏は店頭での抽出業務からは離れています。だからこそ、参加者の目の前でコーヒーを淹れ、その場で提供したこの日は、特別な時間だったのかもしれません。「目の前で作ったものをすぐに提供できるこういった機会は、なかなかありません。皆さんの笑顔を見るとすごく幸せです」——吉川氏のそんな言葉がとても印象的でした。

小川珈琲・吉川寿子 インタビュー

続いては、2013年ワールドラテアートチャンピオンシップ(WLAC)を制した小川珈琲のチーフバリスタ・吉川寿子氏へのインタビューをお届けします。競技への向き合い方から「美味しいコーヒー」の定義まで、幅広くお話を伺いました。

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latte map 室井

小川珈琲では、どのように競技者を選考・育成しているのでしょうか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

選考は、店舗スタッフや営業担当者を含む100名以上の全従業員に平等に開かれています。重要なのは、日常業務をこなしながらトレーニングにも打ち込める能力と、スケジュールを主体的に管理できる自律性です。その人が「今日何をすべきか」を自分で考え、行動できるかどうかが、チャンピオンに共通する資質だと思っています。

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latte map 室井

その自己管理能力が、チャンピオンに共通する資質だということでしょうか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

そう思います。将来の目標から逆算して、今日やるべきことを自分で決められる人ですね。その力が、競技の準備でも、日々のバリスタの仕事でも、最終的に大きな差になってくると感じています。

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latte map 室井

今回のイベントで共演するジャック・シンプソンさんとは、どのようなご縁があるのでしょうか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

実は、ジャックが世界タイトルを獲る前から繋がりがあるんです。彼がWBC(ワールドバリスタチャンピオンシップ)で準優勝したころ、SCAJで小川珈琲のイベントにゲストとして招いたことがあって、そこから関係が始まりました。だから彼が優勝したとき、本当に自分たち小川珈琲チーム全体の喜びとして感じられて。

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latte map 室井

そうだったんですね!ジャックさんはパナマ・デボラ農園の豆を大会で使用されていましたが、コーヒーを通じた繋がりも感じる場面があるとのことで。

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

そうなんです。WBC2024では、上位3名のバリスタ全員がデボラ農園のコーヒーを使っていて、小川珈琲もそのコーヒーを扱っていました。バリスタとしての繋がりだけじゃなくて、コーヒーの生産者を通じた縁が、競技の世界でも確かに存在するんだなと実感しました。

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latte map 室井

2013年のWLAC優勝を、今どのように振り返っていますか。

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

正直に言うと、優勝した当時はコーヒーについてまだ十分に知らなかったと思っています。チャンピオンという立場になると、常に専門家として見られますよね。その期待に応えられているのかという危機感が、優勝後にかえってコーヒーを深く学ぼうとする動機になりました。プレッシャーが逆にエンジンになった感じです。

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latte map 室井

情報があふれる今の時代、これから大会を目指す競技者にはどんなことを伝えたいですか。

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

SNSやインターネットで収集した情報を適切に整理し、自身のスキルや環境にあった活用をしてほしい、ということです。今は素晴らしい情報がたくさんあるけれど、外のトレンドに影響される前に、まず自分自身の知識の軸をつくることが大切だと思います。カップの中の味と品質に徹底して向き合うこと、それがすべての出発点になると思っています。

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latte map 室井

吉川さんにとって「美味しいコーヒー」とはどのように定義されますか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

コンセプトとカップが完全に一致している状態、それが美味しいコーヒーだと思います。まず、お客様に提供したい体験を言葉にできること。そして、そのビジョンを品質を落とさずカップの中に変換できること。頭の中にあるイメージと、実際に注がれた液体が一致したとき、初めて「美味しいコーヒー」が完成すると考えています。

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latte map 室井

ラテアートについては、どのようなお考えをお持ちですか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

ラテアートは大切な付加価値だと思っています。美しく心のこもったデザインは、お客様にとってその体験をより記憶に残るものにしてくれます。でも、絶対的な優先事項はコーヒーそのものの美味しさです。過度に複雑なアートは不要で、重要なのはバリスタの意図や心遣いがきちんと伝わること。アートはその気持ちを伝える手段であって、目的にはならないと思います。

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latte map 室井

実際に美しいラテアートを仕上げるうえで、技術的に特に大切にしていることは何でしょうか?

<span class="fz-12px">吉川氏</span>
吉川氏

フォームドミルクとエスプレッソの一体感があり、コントラストを最大限に引き上げることが核心だと思います。クリーミーに仕上げたフォームをクレマにきちんと乗せてあげること。そして、ミルクとコーヒーが分離しないよう、できるだけ素早く注ぐこと。この2点が特に大切にしているポイントです。

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latte map 室井

貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ジャック・シンプソン氏 シグニチャードリンク

ジャック・シンプソン氏は、オーストラリア・メルボルンを拠点に、Axil Coffee Roastersでセールス&クオリティコントロールを務めます。業界歴15年以上、コーヒー抽出の技術とイノベーションの可能性を常に切り拓いてきた人物として、スペシャルティコーヒー業界で広く知られています。2025年10月、イタリア・ミラノで開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において世界50カ国以上の頂点に立ち、悲願の優勝を果たしました。

ジャック氏のタームは、英語での説明を通訳の方が日本語に訳しながら、和やかな雰囲気の中で始まりました。2025年のWBCで審査員に提供したシグニチャードリンクが、この日のイベント参加者にも届けられました。

まずジャック氏は、このドリンクのコンセプトについて語りました。

ジャック氏「このコーヒーのアイデアとしては、元々コーヒーが持つその味わいに少し付け加えて、コーヒーをよりリッチなものにすること。コーヒー本来の良さを称えながら、相乗効果のある素材を加えることで、より豊かな体験を生み出したいと思いました。」

加える素材は、あくまでコーヒーを輝かせるためのもの。コーヒーの存在を消してしまうのではなく、その奥にある豊かさを引き出すこと——それがジャック氏のシグ二チャードリンクの根本にある考え方でした。

イベントで使用されたコーヒーは、パナマ・デボラ農園のゲイシャ・アナエロビックナチュラルです。WBCでは、同一農園のゲイシャ種で精選方法が少し異なるコーヒーを、エスプレッソ・コースとシグ二チャー・コースそれぞれで使用されました。実際の大会では、デボラ農園のコーヒーとコロンビア・サルサ農園のコーヒーをブレンドしていましたが、今回はデボラ農園のコーヒーのみの提供となりました。

WBCにおけるジャック氏のプレゼンテーションの詳細については、こちらの記事をご覧ください。

デボラ農園はパナマ・ボルカン地域(火山周辺)の高地に位置し、ゲイシャ種を育てるのに最適な、美しい土壌と環境があります。ジャック氏は個人の見解として、この農園を「世界一のコーヒー」と話します。彼自身デボラ農園を訪問した経験があり、生産者のジャミソン氏が最高のゲイシャを育てるために注いできた努力を間近で見てきたからこそ、「世界一」という言葉に迷いがなかったようです。

ジャック氏はシグニチャードリンクの設計にあたり、「実はコロンビア・サルサ農園に行ったときに、生産者のジョナサン氏が提供してくれたコーヒーではない『飲み物』が、最終的なドリンクのインスピレーションになった」と話します。この飲み物というのが、サルサ農園で実際に栽培されているパッションフルーツのジュースとコーヒーと蜂蜜を混ぜたものだそうです。

インスピレーションを得たサルサ農園の飲み物を、世界大会に持ち込めるレベルへと昇華させるため、ジャック氏はオーストラリアの著名なバーテンダーにも相談を重ねたと話します。世界大会では、コーヒーの価値というものを審査員に伝えるプレゼンテーションに構築。素材を丸ごと使い切る——例えば、パッションフルーツのジュースではなくて、皮にも価値があるので、ジュースを使わず、その皮を使おうと考えたそうです。同じ発想で、コーヒーの実の外皮であるカスカラも使用。水を蒸発させるロータリーエバポレーター(減圧蒸発機)に二つの皮を入れ、水を通し凝縮された液体を抽出。そしてサルサ農園のジョナサン氏から取り寄せた蜂蜜で手作りしたビネガーを加え、炭酸化させ、4℃に冷やして仕上げました。ジャック氏は「このコーヒーを通して、各素材のその価値というものと、生産地・生産者との繋がりというものを伝えるために、このドリンクを作った」と話します。

またジャック氏は「大会では様々なドリンクを提供するので、エスプレッソ本来の味を出すのはとても難しい」と語り、だからこそデボラ農園のデリケートな風味を消さないよう、足す素材のバランスを極限まで絞り込んだそうです。

今回のイベントで提供されたドリンクは、濃厚でフルーティ!ビネガーの柔らかな酸味とフローラルなエスプレッソの味わい。ジャック氏のコンセプトをしっかり体感することが出来ました。WBCで提供された「完全な」シグニチャー・コースも味わってみたくなりました。

ジャック・シンプソン氏 インタビュー

最後に、2025年WBCを制したジャック・シンプソン氏へのインタビューをお届けします。過去の大会では3位、2位と経験を積み、2025年大会の挑戦で頂点に立った彼が、競技を通じて辿り着いた哲学について迫ります。

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latte map 室井

過去に3位、2位を経験されて、今大会で優勝を果たされました。最大の要因についてお聞かせいただけますか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

競技を始めて9年になります。途中で休止期間もありましたが、最初に競技に出ようと思った理由は、勝ちたいということではまったくなかったんです。コーヒーについてもっと学びたい、スキルアップしたいという気持ちからでした。

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latte map 室井

休止期間はどのような経緯で?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

パートナーのいるカナダに移住して、しばらく競技から離れていました。パートナーが競技に出ていたので、そちらのサポートをしていたんです。オーストラリアに戻ったとき、外から競技を見ていた経験が新鮮な視点をくれて、「今なら勝てるかもしれない」という感覚がありました。

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latte map 室井

復帰後の3位はいかがでしたか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

毎晩、毎週末、本当に一生懸命トレーニングしました。周りのサポートも受けながら。でも3位という結果を振り返ると、自分のプレゼンテーションのコンセプトと深くつながれていなかったと思います。技術的な準備はできていた。でも、なぜ戦うのかという理由が弱かった。

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latte map 室井

翌年の2位はいかがでしたか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

フランスのサイクリング競技に関するドキュメンタリーを見て、「カイゼン」——継続的な小さな改善——という哲学に触れたんです。どんな細かい部分でも少しでも良くできないかと考えながら、とにかく改善を重ねました。その結果が2位でした。正直、2位になったとき、「これで十分だ」と思った。でも同時に、「では、なぜ自分は競技に出るのか」という問いが残ったんです。

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latte map 室井

2025年大会の挑戦に向けて、何が変わったのでしょうか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

最後のトレーニング期間に、コロンビアのサルサ農園を訪問したんです。生産者のジョナサン・ガスカ氏に会いに行き、彼がどのような道のりを経て今の農園にたどり着いたのか、その歩みを聞いて、本当に感動しました。

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latte map 室井

農園ではどのような場面が印象に残りましたか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

「トップバリスタが来る」というプレッシャーから、ジョナサン氏が訪問のために新しい機材を購入して準備してくれていたんです。それを知って、見て、本当に心を動かされました。私はグリーンバイヤーとして産地を訪れる仕事もしているので、生産者が訪問者をどれだけ大切に受け入れているかを知っています。だからこそ、その期待にきちんと応えられる存在でなければならないと、改めて思ったんです。

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latte map 室井

その経験が、競技への目的を変えたのでしょうか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

はい。同じ旅でパナマのデボラ農園にも訪問して、ジャミソン氏が最高級のゲイシャコーヒーを育てるために注いでいる努力も目の当たりにしました。生産者の努力と、そのコーヒーが競技で使ってもらえるという思い——その重さを責任として受け止めたとき、「競技のステージを使って、生産者のストーリーを伝える」という自分なりの目的が見えたんです。

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latte map 室井

WBCのプレゼンテーションで貫いたテーマ「バリスタの責任とコーヒーの価値共有」について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

バリスタの最も重要なツールは「声」だと思っています。競技のステージでも、カフェのカウンターでも、生産者を含むすべての人を代表することがバリスタの責任だと。コーヒーが農園から審査員のカップに届くまでの長い旅路——その過程に関わるすべての人の思いを、声に乗せて届けることがプレゼンテーションの核心でした。

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latte map 室井

デボラ農園とサルサ農園のコーヒー、それぞれの選定と準備プロセスについてお聞かせいただけますか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

まずコーヒーの選定から言うと、前年は何百種類ものサンプルを試していましたが、最終年はまず生産者を決めました。そこが一番の変化です。ジャミソン氏から10種、ジョナサン氏から10種、合計20種程度の中から選ぶアプローチに変えました。信頼できる生産者と深く向き合うやり方に変えたんです。

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latte map 室井

豆が決まった後の準備の工程について教えてください。

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

まず鮮度を保つために生豆を航空便で輸送します。到着後すぐにサンプルローストしてカッピングで評価。本番の焙煎は22kgの焙煎機で6kgの少量バッチで行います。焙煎後は全豆をテーブルに広げて1つひとつ手作業でハンドピックして欠点豆を取り除きます。選別後は700gの袋に密封して、アルゴンガスで酸素を置換して保管します。

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latte map 室井

保管から使用までの管理も細かいと伺いました。

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

暗所で保管して、どれくらい熟成させるかを少しずつ試しながら特定します。今大会は10〜15日でした。袋を開けるタイミングも管理していて、使用の2時間前からカウントダウンする形で。競技と全く同じモデルのマシンとグラインダー、同じ水を用意して練習することで、競技本番と同じ環境を完全に再現するようにしました。

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latte map 室井

これから競技会を目指すバリスタへ、どんなメッセージを伝えたいですか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

競技に出ることで、自分にとって意味のある目的を持つことが大切だと思います。私が最初に競技を始めたのはコーヒーをもっと知りたいというシンプルな理由でしたが、続けていくうちに気づいた——競技会にはメッセージを伝えるプラットフォームがある。去年の自分のプレゼンテーションは、生産者のメッセージを伝え、素材の価値を共有することが目的でした。これから競技に挑む方には、自分自身の目的——何をやり遂げたいのか——を明確にしてほしいと思います。

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latte map 室井

チャンピオンとして、今後の競技会への参加方針と業界への貢献についてお考えをお聞かせください。

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

今後、競技に出ることはないと思います。ただ、コーチという形で関わることはあるかもしれません。今後目指したいのは、スペシャルティコーヒー業界にとってポジティブなロールモデルになること。どういった形になるかはまだわかりませんが、新しくバリスタを目指す人たちが自分を目標としてくれるような存在になりたい。そして、バリスタとしての責任とコーヒーの価値というコンセプトを、業界の中でもっと広げていきたいと思っています。

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latte map 室井

最後にプライベートでのコーヒーの楽しみ方も教えていただけますか?

<span class="fz-12px">ジャック氏</span>
ジャック氏

個人的にはフィルターコーヒーが好きで、Hario V60をほぼ毎日使っています。ケメックスやフレンチプレス、エアロプレスよりもプアオーバーが好みです。実は日本に来る1週間前に、初めて自宅にエスプレッソマシンを買ったんです。いつでも飲みに来てください、ちょっと遠いかもしれないですが(笑)。

<span class="fz-14px"><span class="fz-12px">latte map 室井</span></span>
latte map 室井

いつか行きます!(笑)

貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ジャック氏とすっかりロン毛になったlatte map編集長の室井

編集後記

今回のイベント取材とインタビューを通じて、吉川氏とジャック氏のお二人から繰り返し聞こえてきた言葉、それは「目的」でした。

ジャック氏は9年間の競技人生の中で、3位、2位と実績を重ねながらも、最後の挑戦まで「なぜ自分は競技に出るのか」という問いに向き合い続けました。転機となったのは技術の向上ではなく、コロンビアのサルサ農園でジョナサン氏と出会い、生産者の姿に心を動かされた経験でした。「競技のステージで、生産者のストーリーを伝える」という目的を持ったとき、初めて世界の頂点に立てたと語っていました。

吉川氏もまた、「かっこいいプレゼンテーションや流行りの機材に頼るのではなく、自分は本当にどう考えているのかを自問してほしい」と競技者に伝えていました。SNSやインターネットで見たものを安易に真似するのではなく、まずカップの中の味と品質に徹底して向き合い、自分自身の知識の軸をつくること。その日々の誠実な積み重ねが、最終的にチャンピオンをつくるのだと。

技術を磨くことと、なぜ戦うのかを知ること——お二人の言葉が示しているのは、その両方が揃ったとき初めて、競技会は本当の意味で「自分のもの」になるということではないでしょうか。世界の頂点を経験したお二人が同じように語るこのメッセージを、これから大会を目指す競技者の方への糧にしていただけたら嬉しいです。

最後に、今回の取材にご協力いただいた吉川寿子氏、ジャック・シンプソン氏、そして小川珈琲の皆さまに心より感謝申し上げます。